今月を視る(「むすぶ」2012年3月号より)2012/03/16 23:37

「汚染がれき広域処理」は原発再稼動への誘導路

東日本大震災から1周年の3・11を境にして、政府の「震災廃棄物広域処理」キャンペーンがいっそうの激しさを増している。避難者をはじめとした市民の「放射能を拡散させるな」の声と運動に、自治体が安易な「がれき処理受け入れ」ができないからである。石原、黒岩、橋下など住民自治に無縁な首長が、「一部住民の受け入れ反対は科学的根拠もなく、ただのエゴ」「住民の声に押されて、受け入れ躊躇の自治体は、政府が叱責すべき」などの発言を繰り返す。マスメディアも、住民の反対の声と問題指摘に耳を貸さず、被災地・者にとって、「がれき処理が最優先の課題」であるというウソを何の検証もせず、たれ流し、「がれき処理を受け入れないのは、被災地・者を見捨てること」(細野環境相)というデマに積極的に加担している。3月6日には、朝日新聞が見開き2面を丸々用いたカラー全面広告「みんなの力で、がれき処理 災害廃棄物の広域処理をすすめよう 」(環境省・数千万円の費用)。3月13日には、初の関係閣僚会議を開催し、全都道府県と政令市に受け入れ(がれき処理)を文書で要請することを決め、汚染がれきの広域処理を政府が前面に出て強行する構えを見せている。

広域処理の対象とされる岩手、宮城のがれきはすでに、「仮置き場」に片付けられている。一部で問題(がれき堆積による発火、ガス発生など)が生じる可能性があることは否定できないが、問題回避へ技術的に対応可能である。がれき処理が被災地・者支援の「要」、「喫緊の課題」というイメージは、つくりあげられたものであることは明らかである。

では、「がれき広域処理」の狙いは何か。一言でいえば、広範囲の放射能汚染を覆い隠すことである。「首都圏の一般廃棄物と比べても、宮城・岩手のがれきの放射性物質の測定量はほとんど変わらない」という時、見落としてはならないのは首都圏の放射能汚染がそれほど深刻だという事実だ。東京東部や千葉県の廃棄物焼却施設で8000Bqを超える焼却灰が出ることが深刻な汚染実態を示している。

被災地・者への復興支援として、最も急がなければならないのは雇用対策である。だが、がれき処理をめぐっても、地元の雇用を生み出すことができる自治体(仙台市や陸前高田市など)の様々な地元処理計画、提案、アイディアはことごとく国、県によって拒絶された。数千億円の復興予算は地元にメリットの少ない「がれきの広域処理」にではなく、被災地の雇用拡大にこそ使われるべきである。

被災地・者の支援として、全国の自治体が取り組むべきは、避難者の権利を保障することである。汚染がれきの受け入れで、被災者や避難者への丁寧なサポートをごまかすことがあってはならない。

汚染がれきの広域処理は、原因者である東電の責任追及が全くない点においても、犯罪的な役割を担っている。東電が出したものは、東電が引き取るべきだ。このことを基本にすえた、汚染がれき処理が問われていることを明確にしなければならない。

3月11日の記者会見で、野田首相は,原発の再稼動について「私を含め枝野経済産業相、藤村官房長官、細野原発事故担当相の4閣僚で集まり、安全性や地元の理解をどう進めていくのかの議論をし、地元に説明に入る。政府を挙げて説明し、私もその先頭に立つ」と原発再稼動へのあからさまな意欲を表明した。汚染がれきの広域処理と原発再稼動は明らかに連動している。

福島第1原発の事故が引き起こした東日本の広範な放射能汚染実態が明らかになることを彼らは何よりも恐れている。今後、何十年と注意と警戒が必要な深刻な汚染は福島だけではない。岩手、宮城は言うに及ばず、東京を含めた東日本全体に広がったのだ。この取り返しのつかない事態を引き起こした元凶である原発は今すぐに無くさなければならない。多くの市民がそのことにはっきりと気づくことを恐れている。その意味で、汚染がれきをめぐる問題は、原発再稼働を認めるか否かと全く同じ問題である。

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