今月を視る(「むすぶ」2014年5月号より)2014/06/19 10:37

ウソで固めた「安保法制懇」報告、「首相記者会見」に対し
武力行使=「殺し、殺される」リアリティーを対置し、反対世論を高めよう

「殺し、殺される」ことへのリアリティーを全く欠いたまま、「武力行使を大前提とした戦力こそが相手の軍事行動を思い留まらせる」とする古い「武力信仰」を「積極的平和主義」と言い換え、「国民の命と平和な暮らしを守る」と呪文のように空疎に繰り返した安倍首相の「安保法制懇」(安倍の単なる私的諮問機関で何の法的権限もない)の集団的自衛権に関する報告書を受けての記者会見が5月15日に行なわれた。沖縄の施政権返還から42年を迎えた日である。沖縄を切り捨てた1952年の「4.28」(サンフランシスコ講和条約発効日)を「主権回復の日」とし、万歳を三唱して恥じないように、もともと安倍政権の眼中には「沖縄」はない。したがって、沖縄の一地方都市にすぎない名護市とそこに暮らす住民の意思や「国民の命と平和な暮らしを守る」こととは、無関係な事柄なのだ。

沖縄防衛局は、名護市辺野古の新基地建設計画で、辺野古埋立て手続き関し、沖縄防衛局が市に申請した漁港占用許可など6件のうち、市が「申請の形式を満たしていない」として、許可や協議事項などの申請4件について補正を求めていたが、防衛局がこれを拒否し、「法令に従い適正に対応している」として、名護市との協議を打ち切る方針を示唆したため5件の回答を見送った。防衛局は「協議が整わなかった」として、「速やかに県への岩礁破砕申請に移行する」方針だという。さらに「移設工事に向けた辺野古沿岸の海底地質ボーリング調査に係る開札を13日に行う。5月下旬に受注業者を選定、6月以降にボーリング調査を始める見通しだ」と地元名護市を飛ばして、県との形式手続きを整え、埋め立てを強行するという専制政治のような強引な姿勢を変えようとはしていない。

安倍が周到に準備した記者会見で空々しく繰り返した「国民の命と平和な暮らしを守る」ために必要な措置の実態と本質がくっきりと浮かび上がっている。

さて、5月15日の「安保法制懇」報告書と首相記者会見の中身はウソとでたらめのオンパレードだ。具体的事例として持ち出した「朝鮮半島有事の際の日本人を輸送する米艦船に対する攻撃に自衛艦が反撃、駆逐する」という「限定的ケース」は、実際にはありえない作り話である。もし、朝鮮半島有事があるとすれば、それは全面戦争であり、日本人を米艦船が輸送する余裕などないはずであり、しかも米軍が「敵」基地を先制攻撃しているのが実際の状況であろう。「PKOで文民や他国の部隊を救援する駆けつけ警護」は、世界のNGOのほとんどは「武装集団」による攻撃を避けるためどの国の軍隊との関わりも持たないという方策をとっている。こうした世界のNGO活動の実情を意図的に無視し、武力行使正当化に利用するこじつけ事例の典型である。「グレーゾーン事態」として「海上保安庁が速やかに対応できないような海域や離島等において・・・」の事例は、もし、そのような海域や離島が具体的に示されるならば、海保の能力強化の論議が先行されるべきある。いずれにしても「報告」「記者会見」は、自衛隊による武力行使の口実を無理やりつくりだそうとした出来の悪い作文にすぎないことが明白になった。

「リアリティーのある安全保障論議を」とうそぶく「安保法制懇」報告、「首相記者会見」に対して、「武力行使」がもたらす実態、リアリティーをぶつけ、ウソとでたらめを徹底的に暴露しよう。「『戦争』では必ず人が死ぬ。個別的自衛権以外の武力の行使を認めれば、日本を攻撃していない外国人を殺傷し、それに伴い無辜の市民を殺傷する可能性が生じる。実際の戦闘では即死は少ない。腹部を撃たれた場合、腸が出てきてもかなりの時間生きている。五体満足で死ぬとは限らず、手榴弾で機関銃座を吹き飛ばせば、当然死体の損傷は激しい。銃剣で人を刺せば相手の体に銃剣を送り込む感触が手にこびりつく。苦悶の表情を間近で見ることになるし、断末魔の叫びは耳にこびりつき、返り血も浴びる。精神的後遺症もあるだろう。人間を殺すというのはそういうことなのである」(水島「戦争とたたかう―憲法学者・久田栄正のルソン戦体験」「武力行使」による「殺し、殺される」実像は、練習を重ねて臨んだ安部首相の「丁寧な説明」を吹き飛ばすことができる。

「むすぶ」目次(2014年5月号)2014/06/19 10:45

■ 今月を視る/ ウソで固めた「安保法制懇」報告、「首相記者会見」に対し
「殺し、殺される」リアリティーを対置し、反対世論を高めよう
■ 報告/ 近畿発の米軍基地(Xバンドレーダー)建設は許さない!  豆多敏紀                 
■ Q&A/ 漫画「美味しんぼ」に対する権力の不当な圧力を許すな!
               住民を被曝から守る責任は誰にあるのか          
■ 読書あんない/『赤ヘル1975』 重松清 著 南河内郡太子町 湯川 恭
■ 読者つうしん/戦争の実相を発信し、戦争国家づくりを止める!日野市 有賀精一
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