今月を視る(「むすぶ」2020年6月号より)2020/06/26 17:15

「イージス・アショア」配備「停止」を機に
東アジアの新たな軍縮秩序を築く闘いを!

基地建設は断念させることができる
 6月15日、河野防衛相が秋田、山口両県への陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」配備計画について「プロセスの停止」を表明した。河野防衛相は、「停止」の理由について、発射後ミサイルから切り離されるブースターをコントロールして落下させることができない技術的欠陥をあげ、この改修にさらに多額の費用と期間が必要なことから、「配備は合理的ではないと判断した」とした。だが、このような初歩的欠陥は最初から分かっていたはずで、政府にとって、「停止」判断に至る動機の一つは、「イージス・アショア」ではINF(米ロ中距離核戦力廃棄条約)失効(2019年8月2日)後の米中ロを中心とした世界的なミサイル・核軍拡競争に対応できず、「無用の長物」となることが明らかになっていることだ。しかし、このような政府や軍拡推進勢力の思惑が政府の「停止」判断に導いた最大の要因ではない。決定的な要因は、地元住民の揺るぐことのなかった反対の意志と粘り強い闘いであった。配備先とされた新屋演習場の秋田市とむつみ演習場の萩市・阿武町では自治体ぐるみで政府・防衛省のでたらめ計画を追及し、「プロセスの停止」に追い込んだのである。
 奇しくも、今年は「大阪・能勢ナイキ基地建設」計画が打ち出されて50年にあたる。能勢ナイキ基地建設反対闘争は、地元住民を先頭に、周辺自治体や労働組合を巻き込んだ幅広く、粘り強い7年間の
闘いの末に建設計画を断念させ、勝利した。1973年には、「長沼自衛隊違憲判決」も勝ちとられた。今回の「イージス・アショア」配備の「停止」は、「能勢の教訓」である「基地建設は断念させることができる」を見事に証明したのである。

辺野古新基地建設はもっと「合理的ではない」
一方、工事関係者の新型コロナウイルス感染で中断していた辺野古新基地建設工事が6月12日に再
開が強行された。県議選からわずか5日後の暴挙である。そもそも辺野古新基地建設はすべての面で不
合理である。まず、中国のミサイル射程内にある沖縄での米海兵隊基地新設は、軍事的に疑問視されて
いる。さらに辺野古海域には軟弱地盤が広がり、技術的にも不可能である。費用も期間も「イージス・
アショア」の比ではないほど膨大だ。そして、何より沖縄の民意は「新基地建設反対」である。「イー
ジス・アショア」に続いて辺野古新基地建設は断念しなければならないし、断念させることはできる。               

政府の「ミサイル防衛」再構築に抗し、軍縮を対置するとき
 政府は「ミサイル防衛」強化を断念したわけではない。中国を主要なターゲットにした「ミサイル防衛」体制構築・強化が政府の戦略である。この間、新たに設置・建設された京丹後・Xバンドレーダー基地や「南西諸島防衛線」―奄美~宮古~石垣をつらねるミサイル基地群はこの戦略に位置づいている。
一旦はつまずいたものの、「ただでは転ばぬ」政府・防衛省が早速動き始めている。「安保の空白は避けなければならない」を口実に、「敵基地攻撃能力」の保有に乗り出した。「迎撃ミサイルがダメなら」「敵が発射する前に、敵基地を叩く」というわけだ。政府の計画は、「国家安全保障戦略」(2013年策定)を改定し、「敵基地攻撃能力」の保有を可能にするというもの。もはや「専守防衛」などどこにもない。憲法を根底から覆す「構想」だ。もともと秋田と山口の「イージス・アショア」は、いつでも「先制攻撃用中距離ミサイル基地」に変更が可能なものだった。すでに「イージス・アショア」に代わる攻撃用ミサイルシステムが候補として挙がっている。敵の射程圏外から発射できる「スタンド・オフ・ミサイル」や地対地「高速滑空弾」などの射程が長いミサイルだ。これらを導入しようと動き出した。

昨年8月2日、米トランプ政権の一方的な離脱によってINF(米ロ中距離核戦力廃棄条約)が失効した。米国は直ちに新たな中距離ミサイルの開発に着手し、アジア・太平洋に中距離ミサイルを再配備する動きも強まっている。在日米軍基地、自衛隊基地はその有力な候補地であり、INF失効後の新たな核軍拡競争の真っ只中に入ろうとしている。新たなミサイル配備を阻止し、辺野古新基地建設を許さない闘いは、核軍拡競争に抗し、東アジアに緊張緩和と新たな軍縮秩序を築く極めて重要な闘いである。

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